六本木ヒルズを間近に望む麻布十番の街角に、かつて越の湯はあった。
世界に名を轟かす大都会"TOKYO"、現在21世紀?
都心の一等地に伝統の銭湯が半世紀、それだけでも信じがたいというのに
昨年の廃業までは古風な番台が現役で機能していただなんて、
今となってはとても不思議な気がしてしまう。
 
だが意外性もさることながら、越の湯の名を知らしめたのは絶えず湧き出る黒湯だ。
「一度浸かれば美人・好男子」を謳う天然温泉、
風呂好きの地元民ならず温泉愛好家にも、越の湯は広く知られていた。
廃業の知らせは新聞にも大々的に取り上げられたため、
最後の週末は遠方からやってきたお客さんたちで、ごった返していたのを思い出す。
 
当時、かの六本木ヒルズが買い取るなどという噂にかすかな希望を寄せていたのだが、
そううまくいくはずもなかったか。
たしかに見覚えのある風景、しかしそこにあったはずの越の湯は見る影もない。
ぽっかりと空いた麻布十番の一角、今宵の夜風は妙に沁みる。
 
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※ 第拾参番札所 ~ 越の湯 ~ 港区・麻布十番