銭湯というと一般に思い浮かべられるのは瓦屋根の寺社型建築だが、
比較的最近の創業・改装のものはいわゆる「ビル銭湯」形式であることが多い。
外装に木材はほとんど使わず、その名の通り近代的なビルのような外見で、
手のかかる装飾を削ぎ落とした機能的で合理的な形が特徴だ。
 
その多くは設備が充実しているのが利点だが、小奇麗過ぎて昔ながらの風情とは程遠く、
銭湯というよりはむしろ健康ランドのようなイメージを持つかもしれない。
 
 
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しかし京王線沿いのここ給田湯は、それとはまた趣を異にしている。
外見こそ真上に古びたアパートがでんと構えるビル銭湯だが、
縁側に庭、高い天井、おかみさんの座る番台... と、
中の造りは伝統的な寺社型様式と全く変わらない。
 
 
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柱時計もある。ペンキ絵だってある。
異なるのはその壁が年季の入ったコンクリートであることだけで、
大きく鮮やかな宝船のタイル絵に、自家栽培の青野菜までもが置いてある。
 
 
表から見えたアパートは、どうやら脱衣所の上だけのものらしい。
隣接する浴場の天井は、上部に障害が無いためお馴染みの高い『凸』型をしており、
湯気抜きの窓越しには外の野太い煙突を拝むことができる。

嬉しいのは、東京では多くが300円ほどかかるサウナが無料であることだ。
4月なのに少し肌寒いこの日は、奥の浴槽ではなく
この湿式サウナを3・4度出たり入ったりして、汗を流した。
数人居合わせたお客さんたちも同じように往復しては、体を伸ばしたりしていた。
 
 
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しばらくして上がると、番台はいつの間にかおかみさんから
この店の主人と思しきおじさんに変わっていた。
番台さんは脱衣所に降りてきては常連さんと年金や自民党の政治について語り、
「風呂屋で政治の話がでるようじゃあねえ」などと笑いながらスポーツ新聞を広げていた。
 
 
ボーン、ボーン... 柱時計が、鈍い時を6つ打つ。
東京の夕日が、かなり長くなったのを実感する。
 
 
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○ 給田湯

住所 東京都世田谷区給田3?1?28
電話 03-3300-2871
営業 16:00~23:00
定休日 水曜