浜松の朝。昼前まで友人宅のこたつで雑魚寝するが、誰ともなくごそごそ起き出してくる。
乾燥していたので、喉が渇く。
蛇口をひねり、水道水をおもむろに流し込む。
 
 
浜松駅で別れた後、遠州鉄道に乗りこみ一人北へ向かう。
温暖なはずの浜松も身震いするほど寒く、
グレーな空はいつ雪が降り出してもおかしくない面持ちだ。
電車に揺られ、10分弱。
新浜松駅より高架を走っていた単線は次第に低くなり、やがて地上と目線を同じくする。


曳馬の無人駅で降りる。
古くは万葉集にまでその名を辿るといい、大きな樽を並べた酒屋さんがいかにも街道沿いの趣だ。
そんな中に、みよし湯はポツンと佇んでいた。
 
 
hikuma01.jpg
 
miyosiyu01.jpg
 
   
前日の大栄湯とはだいぶ違う外観だが、またもやいきなりの脱衣所だ。
開店と同時に、企業ロゴ入りのツナギを着た3・4人が流れ込む。
天井の低い窯のような小さい浴室に、湯気が籠る。
 
 
壁絵は、ない。近所の理容室の広告が並んでいるくらいだ。
中央に構えた浴槽はまるで実験瓶のような形で、
底にあたる平たい部分が電気風呂となっている。中央が深湯、てっぺんが超音波水流。
両側の壁に並んだカランとの距離は極めて近く、
桶で浴槽より汲み取って、洗髪に用いる人もいる。

 
miyosiyu_datsuizyo.jpg
 
miyosiyu_bonsai.jpg
 
miyosiyu_dryer.jpg
 
  
浴場新聞を片手に、時おり女湯側と会話をしている番台さん。
東京からやってきたと話すと快く撮影を許可し、いろいろな話をしてくれた。
脇の盆栽のこと、どでかいドライヤー台のこと、
本来静岡の浴場組合は360円だが格安のスーパー銭湯にせめて値段でと対抗し、
300円で営業していること。
 
 
銭湯受難の波は浜松も同じで、最近まで10近くあった銭湯も4件程度になってしまったらしい。
ここも、そう長くはないかもしれない。
まあ、もう2度と来ることもないし、東京の自分には正直関係ない話ではある。
けれどもここに来たのも、何かの縁であるはずだ。
そう考えると妙に感慨深くなり、しばらく立ち去ることができなかった。
 
 
        *        *        *  
 
 
外へ出ると、"家族風呂"なる看板と入り口があった。
とても静かな駐車場の裏に、だ。
一家団欒を楽む貸切風呂とのことだが、入口は少し小さい。
白い壁に切り取られたむこうの小庭はやけに静まって、
まるでどこか別の世界へ入り込んでしまいそうな気がした。
 
 
渋谷行きの高速バスに乗り込む。大きな富士山が見える。
「ウチにゃあ、富士山の壁絵なんて必要ないよ。なんせ、本物があるんだからねえ」
という番台さんの言葉を思い出し、一人うなづく。
 
窓際の席は、右の肘が冷たくなる。
この日、東海道の足柄山では雪が降った。
 
 
miyosiyu_kazokuburo3.jpg
 
miyosiyu_kazokuburo.jpg
 
miyosiyu_04.jpg
 
 
 
○ みよし湯

住所 静岡県浜松市中区曳馬6丁目5?30
電話 053-471-3844
営業 15:00~21:00
定休日 7、17、27日
入浴料金 大人300円、子供100円、幼児50円
洗髪料金 0円