連休明け、しょんぼりしながら神田駅を降りたら、西口商店街の人ごみのなかに、よく行く喫茶店の常連のご婦人をみかけた。
人が多くてやがて彼女を見失ってしまったのだが、おそらくいつものごとくブラジル館に向かったんだろう。

彼女と話したことはないし、どこのお店の人か分からないけど(だいたい検討はついているが)、毎朝お店にやって来て大体同じ席に掛ける。
そして、新聞を読みながらコーヒーとバタートーストを頼む。
お店に行き始めて間もない頃は、何故そんなにも地味なバタートーストばかり食べているのか疑問に思っていた。
他にも、ハムやタマゴをはさんだ、こんがりとしてお腹いっぱいになるトーストがあるというのに。

 

080507_brazil.jpgしかしハムトーストに飽きてきたある日、なんとなくバタートーストを頼んでみた。
紙を敷いた編みカゴのお皿で出てくる。横方向に三つ切りのトースト、その上にしゅわーと溶けかけのバターがのっている。
その、ながら食い(新聞や本を読みながら)にぴったりのつかみやすさといい、焼きかげんといい、バターの塩かげんや溶け具合といい、一つ一つが行き届いてる感じなのだ。

もちろん、サイフォンで入れてくれるあつあつのブラジルコーヒーも美味しい。
ブラジルなんて昔くさい、などと言うなかれ。 とても懐かしくてほっとする香りと風味なのだ。
ハムトーストやタマゴトーストも他にはないような、一手間かけた美味しいもの。

 

何故ここに入るようになったのかというと、店先の看板と大きな窓にどーんと書いてある、いい味だしてるロゴタイプとコーヒーカップに惹かれたのだ。

年季の入った椅子も他では見たことのない素敵なものだ。
椅子のミニチュアが店内に置いてあるくらい、その椅子を誇りにしてるみたい。(伝票に描かれてるイスは、全然違う形だけど。)
そして、駅から近くて会社に行く道のりにあること。手早くまっとうなものを出してくれること。
その割りに、マスターが奥の席で休んでいたりして、なんとも気取らない空間。
通りがよく見渡せる明るい大きな窓、適度な奥行きと広さ。

そんなところが気に入っていて、毎朝とまではいかないけど、私が神田で一番通っている喫茶店だと思う。
でも、不思議と朝以外に行ったことはなくて、メニューの全ては把握していないかもしれない。

 

あの人は今日もいつもと同じなんだな、と思ったらなぜかほっとした。
見慣れた商店街の景色を眺めるうち、憂鬱な気分も忘れ、すんなりと仕事のある日々に戻ることができた。

この街で、見ず知らずの私たちはなにか、思いみたいなものを共有している。
影響をうけている。

 

ブラジル館(内神田)
東京都千代田区内神田3-11-10
03-3254-2356